【テクノロジー図鑑vol.13】武田レッグウェアー株式会社『R×Lソックス』編─“究極の素足感覚”を生んだ、靴下メーカーの妥協なき追求
長年愛され続ける有名プロダクトから、あっと驚く新製品まで。ランニングにまつわる気になるテクノロジーを紐解く、スポリートの“テクノロジー図鑑”。第13回目のテーマは、R×Lソックスです!
今回のテクノロジー図鑑では武田レッグウェアー株式会社にお邪魔し、R×Lソックスについてお話を伺ってきました。世界で初めて、つま先の構造が靴のように左右で異なっている靴下の開発・生産に成功。“究極の履き心地”を実現するには、靴下を素足に近づけることがベストという考えのもと、数々の独自技術を駆使しながら立体的でフィット性の高いソックスを作り続けています。
「素足の状態とほぼ同じ」足と一体化するようなフィット感を実現
──まずは、R×Lソックスの特徴を教えていただけますか?
まずひとつの大きな特徴は、“右・左別立体設計”です。R×Lソックスの基盤にもなっている技術で、特許も取得しています。「R×L」のブランド発足以前に、当時の社長が靴下の履き心地を探求するうえで、「どうして靴は左右で構造が違うのに、靴下は左右同じなんだろう」と疑問を抱いたことから生まれた技術です。
つま先の親指側が長くなるように編み、さらに小指側よりも親指側に厚みを持たせることで、足にフィットするように設計しています。つま先右左立体形状の特許を取得したのは、R×Lが世界初だったんですよ。当社にはほかにも独自のソックス製造技術を多数持っていて、特許の数は国内外含めて30近くにものぼります。
──きちんと左右別の構造で、足の形に合うよう立体的に作られているなんて驚きました。
私たちは、究極の履き心地を実現するためには、靴下の形を足そのものに近づけることが必要だと考えて、“靴下超立体化計画”をコンセプトに掲げています。
これは私の主観的な考えでもありますが、スポーツブランド各社さんが技術力を駆使してどんどん優れたシューズを作り出しているなかで、それでも足にトラブルが起きるのは99.9%靴下のせいだと思っているんです。豆ができたり、擦れてしまったりするのは、靴下がフィットしていないから。わずかな違和感が積み重なることによって、走り方に影響が出てしまうこともあるかもしれません。
靴下は、シューズと足をつなぐ重要な存在です。にもかかわらず、日本では靴下に対する関心がとにかく低い。ランナーの皆さんにも、シューズとウェアには数万円かけているのに、靴下は3足1000円で買った普通のアパレルソックスを履いている、なんていう人も多いのではないでしょうか。きっと、R×Lソックスを一度履いてもらえばすぐに違いがわかると思うので、ぜひこれからは靴下にも目を向けてもらえたらうれしいです。
お話を聞かせてくださった、武田レッグウェアー株式会社 代表取締役の武田大輔さん
──おっしゃる通り、靴下選びはついつい後回しにしてしまう人も多いと思います。だけど、きちんと足にフィットする靴下を履けば、トラブルのリスクも下げながらより快適にランニングを続けられるということですね。ほかにも、フィット感を高めるためにこだわられているポイントはありますか?
5本指ソックスの“履きやすさ”も、こだわっているポイントです。ランナーにも人気の5本指ソックスですが、「履きづらい」と感じたことがある人は多いのではないでしょうか。そこで私たちは、指のお腹の部分に“かかと”の立体構造を応用することで、つっぱることなく指先までフィットさせるように作っています。
靴下の裏側を撮った写真。指のお腹部分が立体的にふくらんでいる。
普通の5本指ソックスを履くと、指先がピンと持ち上がる形でひっぱられます。そのため、無意識のうちに足が不自然な状態になってしまうんです。また、平面状の袋を膨らませながら指を入れることになるので、つま先部分の生地に負担がかかりやすく、すぐに穴が開いてしまいます。「R×L」の5本指ソックスは、素足でとったときのフットプリントとほぼ同じ。つまり、靴下を履いているのに、素足に近い自然な状態で、さらに生地がつっぱることもないので薄地の中では耐久性も高いです。
ほかにも、足首にかけて立体構造になっていたり、足の形に合わせてところどころ締め付けにメリハリを持たせていたり…いたるところに独自の製法を散りばめながら、履き心地を高めています。素足の形に近づけることで、靴下がずれて靴の中に潜ってしまうこともほとんどなくなりますし、走っていると「靴下を履いている」という意識がなくなってきます。靴下が動かないので、汗をかいたときの濡れている感覚もほぼありません。R×Lソックスを履いたときの脳波や心電図などを計り、感覚を数値化してみると、「素足の状態とほぼ同じ」という結果も出ているんです。
また、最近ではウルトラマラソンランナーの砂田貴裕さんとの共同開発で、1cm刻みのサイズ展開も実現しました。これは製造がとても難しくて、現状では1時間に1足しか編むことができません。洋服などは、決められた寸法にカットされた生地を縫い合わせることで形づくるものが多いですが、靴下の場合は、糸を機械に入れると直接靴下の形に編み上げられます。そのため、気温や湿度によって糸や機械の状態がわずかに変化するだけで、編み上がりの大きさが変わってしまうことがあるんです。ただでさえ繊細な靴下作りで、さらに1cm刻みのサイズ展開を実現させるのはかなり大変でした。
1cm単位で自分の足に合ったものを履くと、本当にオーダー品のような履き心地を味わうことができますよ。ぜひご自分のサイズにぴったりなものを履いていただきたいので、基本的には必ず3サイズほど試着したうえでの購入をお願いしています。当社のウェブ販売でも、試着いただくことが可能です。
ものづくりに完成はない
──R×Lソックス誕生までの背景についてもお聞かせください!
私たち武田レッグウェアー株式会社は1982年の創業以来20年間ほど、自社の名前を出さずに取引先のスポーツメーカーさんの製品として靴下を製造していました。そのころから「履き心地」を追求する姿勢を持ち続けていて、会長(当時の社長)みずからメーカーさんの展示会に足を運び、靴下に対する反応を聞きにいくなどしていました。
そして「もっと足にフィットする靴下」の必要性を改めて実感したのとともに、「靴には“左右”の違いがあるのに、どうして靴下にはないのだろう」という疑問を抱くようになったそうです。それから、“左右”のある靴下の開発が始まり、誕生したのが、自社ブランド「R×L」です。ブランド誕生後しばらくは、百貨店の靴売り場や、全国各地で開催されるウォーキング大会などを中心に販売していました。
──ランナー向けのソックスが生まれるまでには、どのような経緯があったのですか?
大きなきっかけになったのは、2007年に開催された第一回東京マラソンです。私自身は学生時代ずっとサッカーをやってきたのですが、ここだけの話、ずっと走るのが嫌いだったんです…(笑)。とは言っても、当時はウォーキング大会で40km以上歩いたりもしていましたし、ウォーキングとランニングには通ずるものがあるだろうということで、東京マラソンを観に行ってみました。
最初は応援の仕方もよくわからなかったのですが、42.195kmもの距離を走ってきた人たちが、あんなにも笑いながらゴールする姿を見て衝撃を受けました。それで、ランナー向け靴下を開発することへの可能性を感じたのと同時に、「来年は東京マラソンEXPOに出展してみたい」と思ったんです。当時はまだ今ほど申し込みのシステムも確立していませんでしたし、苦労もあったのですが、なんとか参加できることになりました。
──2008年の東京マラソンEXPOで、ランナー向けのソックスがお披露目されたのですか?
そうです。当日のスタッフは私一人しかおらず、自分で作ったリーフレットを見せながらランナーの皆さんを集めて説明を繰り返していました。すると、700足準備した商品が、3日間の日程のうち2日間で完売してしまったんです。それで、「きちんと魅力を伝えられれば、ランナーの皆さんは手にとってくれる」ということを実感できました。
私たちは小さな規模の会社なので、広告宣伝費にお金をかけられません。だからこそ、ランナーの皆さんの口コミのおかげで、ここまで広がってきたと感じています。東京マラソンEXPOで購入してくださった人たちが、各地方へ帰ってから「この靴下がほしい」とお店に問い合わせてくれたり、SNSに履き心地を書いてくれたり…。私自身も2008年以降はすっかりランナーになって、それで出会ったランニング友達が良さを実感してくれたり。本当に、人と人とのつながりには感謝しています。
小規模な会社だからこそ、ユーザーさんとの距離が近いのも私たちの強みです。感想や要望を直接メールで送ってきてくださる方も少なくありません。もちろん、そうやっていただく声はずっと大切にし続けています。私たちは、「ものづくりに完成はない」と考えていて、ユーザーさんの声を取り入れながら、常に進化を目指しているんです。
──これから、さらに“究極の履き心地”を追求するためにどんなことをしていきたいですか?
まず、1cm刻みのサイズ展開は他の品番にも広めていきたいと考えています。さらに、いつかは靴下の観点からシューズやインソールを作ってみるなど、足まわりの快適さはとことん追求していきたいですね。
──ランナーのみなさんの中には、きっとシューズやウェアにはとことんこだわる!という人も多いと思います。でも、靴下の機能性や履き心地にまでこだわっているという人は意外と少ないですよね。足を優しくぴったりと包み込んでくれるランニングソックスを履けば、ぐんと快適に走れるようになるはずですよ。武田社長のおっしゃるように、ぜひこれからは、靴下にももっと着目してみてください!きっとR×Lソックスに足を入れたら、抜群のフィット感にびっくりすると思います!