【テクノロジー図鑑vol.5】エプソン『WristableGPS』前編─“長時間・高精度”ランニングウオッチの誕生秘話
長年愛され続ける有名プロダクトから、あっと驚く新製品まで──ランニングにまつわる気になるテクノロジーを紐解く、スポリートの“テクノロジー図鑑”。第5回目のテーマは、エプソンのGPSランニングウオッチ『WristableGPS(リスタブルGPS)』です!
エプソンの『WristableGPS』は、GPS機能や脈拍計測機能を搭載したランニングウオッチ。ウルトラマラソンにも安心して臨めるほどの長時間稼働と、位置情報や脈拍計測の高精度さが魅力です。日本国内でウオッチやプリンタ、プロジェクターなどのさまざまな機器を開発・製造してきたエプソンだからこそ実現できた技術が詰まっています。
そんなWristableGPS。“長時間・高精度”を実現するために、どのように開発が進められてきたのでしょうか。長野県塩尻市にあるセイコーエプソン株式会社塩尻事業所にお邪魔し、お話を伺ってきました。前編では、構想から開発に携わり続ける、ウエアラブル機器事業部の山村義宏さんに、開発開始時のエピソードについてお聞きします。
現在発売中のJ-350B
空港の周りを走ってみて「走った距離がわかれば」と実感
──WristableGPSの開発がスタートしたときのエピソードを教えてください!
WristableGPSの開発が始まったのは2009年です。デジタルウオッチの開発を担当している従業員のなかから若いメンバーが選ばれて、GPS計測を使ったデジタルウオッチの開発をすることになったんです。このときは漠然と「GPS計測を使ったデジタルウオッチを開発する」ということまでしか決まっていませんでした。
──それからランナーをターゲットにすることが決まるまでに、どんな経緯があったのでしょうか?
私がちょうどそれまでラップ計測ができるランニングウオッチの開発に携わっていたこともあり、デジタルウオッチだったらランニング向けか登山向けか…と、まずはイメージしたんです。それからどちらにしようかしばらく悩んでいると、上司から「悩んでるくらいだったら外に出てみろ」と言われて。それで、すぐ近くにある松本空港でランニングウオッチをつけて走ってみたんです。だけど、私は当時運動をまったくしていなかったので、すぐに歩いてしまって…結局1周もできずに、途中から歩いてしまいました。当時のランニングウオッチはタイムしか計測できなかったので、そのとき「これで走った距離がわかればもっと走りやすくて楽しいんだろうな…」と思ったんです。それでGPS機能がついたランニングウオッチを開発しようと考えました。
「省・小・精」のポリシーのもと、長時間・高精度を目指して
──WristableGPSの開発を進めるうえで大切にされたのはどんなことだったのですか?
それからは、海外のGPS機能付きウオッチなども試しながら、開発のためのヒントを見つけていきました。そして気づいたのが、「ウオッチなのにこまめに充電する必要があるのはどうなんだろう?」ということ。アナログ・デジタルの垣根を超えて長年ウオッチを作り続けてきたエプソンとしては、「ウオッチなのに充電しなければいけない」ということが、まずありえないことだったんです。だけど、GPS機能を搭載するからには、消費電力が何桁も違います。そのため、充電する必要があるのは仕方ないけれど、できるだけ回数をへらすことを第一に開発することになりました。エプソンのものづくりには「省・小・精」つまり「省エネルギー、小型化、高精度」を追求し続けてきた歴史があります。こういったポリシーもあって、WristableGPSは「長時間・高精度」をキーワードにしているんです。
──最初に誕生したモデルは、フル充電の状態からどれくらい長い時間使うことができたのでしょうか?
いちばん最初に発売した「SSシリーズ」では、およそ14時間の電池持ちを実現することができました。これは、ウルトラマラソンにも耐えられる長さです。ウルトラマラソンの大会では14時間を制限時間としている場合が多いため、これが当初の目標でした。現在では、GPS計測と脈拍計測を動作した状態で最大36時間使用できるモデルも誕生しています(※使用条件やGPS受信環境などにより稼働時間は異なる)。
2012年8月に誕生した初代機のSSシリーズ
──大会でランニングウオッチを使う場合に、やっぱり電池持ちは気になるポイントなので、1度の充電で長時間使用できるのはとてもうれしいですね。安心して走ることに専念できそうです。ちなみに、WristableGPSを使って走ることのいちばんのメリットは、ずばり何だと思いますか?
いちばんのメリットは、やはり「今自分が走っている距離を把握し、ペースを掴むことができる」点ではないでしょうか。たとえば初めて大会に出場する場合、どうしてもスタート直後にペースをあげすぎてしまうことがありますよね。その結果、後半で大幅にペースダウンしてしまったりする初心者ランナーの方は結構いると思います。そんなときもWristableGPSをつけていれば、周りに流されずに自分のペースでゴールを目指すことができます。もちろん、普段のランニングでも、距離を把握しながら走ることができればぐんと走りやすくなりますよね。さらに脈拍計測の機能を使ってトレーニングの強度を自分で調整したり、活動量計機能を使えば、大会に向けたコンディショニングにも役立ち、より健康的にランニングができるようになります。体との対話にWristableGPSを使えば、楽しくラクに走れるようになるはずですよ。
──ランニングはもちろんのこと、普段の生活にも使えるなんてとっても便利です。初心者の人でもランニングウオッチを活用すれば、より楽しくラクに走れるようになるというわけですね! 山村さんご自身が走りながら開発をはじめたというエピソードや、ものづくりのポリシーについてのお話もドラマチックでした。
では、そんなWristableGPSの「長時間高精度」は、どのようなテクノロジーによって実現されているのでしょう? 次回はGPS計測の仕組みについて詳しくお伝えします。