【テクノロジー図鑑vol.12】ニューバランス『NB HANZO V2』編─伝説のシューズ職人・三村仁司さんによる履き心地を一般ランナーにも届ける

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長年愛され続ける有名プロダクトから、あっと驚く新製品まで──ランニングにまつわる気になるテクノロジーを紐解く、スポリートの“テクノロジー図鑑”。第12回目のテーマは、『NB HANZO V2』です!

ニューバランスのHANZOシリーズは、日本人の足型をもとに誕生した“勝利をつかむ”レーシングシューズ。そして2018年12月、シリーズの誕生から約2年の時を経て進化したフラグシップモデル「HANZO V2」が誕生しました。今回は、「V1」から進化したポイントや、“現代の名工”三村仁司さんとのものづくりについてお話を伺ってきました!

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“現代の名工”三村仁司さんとコラボ。履き心地をさらに追求

──NB HANZO V2は、約2年前に誕生した初代のモデルからどんなところが進化したのでしょうか?

HANZO V2は、シューズ職人・三村仁司さんの「ミムラボ(M.Lab)」とコラボレーションしたというのが一番のトピックスになっています。三村さんは、マラソンや駅伝をはじめ、これまでにさまざまな分野のトップアスリートたちのシューズ・インソール開発に携わってきた「現代の名工」です。ランナーの皆さんもご存知の方が多いかと思います。HANZO V2では、これまで超エリートランナーしか体感することができなかったミムラボのシューズの履き心地を、多くの方に感じていただけるというのが大きなメリットです。

お話を聞かせてくださった、商品企画 GBUプロダクト部の武田信夫さん

──三村さんとコラボレーションすることになった経緯を教えてください。

ニューバランスは、今から110年以上前にアメリカのボストンで誕生した“矯正靴”のブランドで、もともとはどちらかというと医療器具に近いものづくりからスタートしました。だからこそ、シューズで身体の健康をサポートしようという考え方が前提になっています。
そして、同じような考えを持って日本で長年シューズづくりを続けてきたのが、三村さんです。そこで、三村さんの力を借りながら、ニューバランスのシューズの履き心地をもっと深掘りしていきたい、ということでコラボレーションさせてもらうことになりました。HANZOシリーズは、2017年のデビュー時から、ニューバランス ジャパンが主体となってアメリカ本社と共同開発してきたモデルです。今後も、さらに日本人の足にフィットするシューズを追求したいという思いもあります。

──具体的にどんなところがパワーアップしたのですか?

いちばんは、ラストの部分です。三村さんが過去数十年間で何十万人もの足型を計測してきたデータと、ニューバランスに蓄積されてきたデータや技術の良いところを融合させてつくりあげています。具体的なポイントとしては、日本人の足の傾向に合わせて、かかとをしっかりとしぼって、前足部はやや広めにとり、甲まわりのシェイプは少し低めに設計しています。これらはHANZOの基本構造として、考え方そのものはV1のときから共通していますが、微調整を加えてさらにパワーアップしました。

また、2年前のV1から変更になった構造もいくつかあります。ひとつは、アーチの巻き上げ。よりサポート力を高めるつくりに変更しています。
もうひとつ、これは靴の構造全体にも関わる話ですが、傾斜の角度を変えています。V1では前後差が4mmで、ほぼフラットな設計でした。今回は、ミムラボのシューズに倣って前後差を6mm(27.5cmを基準)にしています。傾斜を少し大きくすることで、より足運びがスムーズになり、脚の後ろ側の筋肉や腱への負担も軽減できるようになります。

NB HANZO S

NB HANZO R

──素材面でもパワーアップしたところはありますか?

メッシュの柔らかさにはかなりこだわり、何度も調整を重ねました。というのも、三村さんは「ケガをしないでこそ継続的に練習でき、強くなれる」という考えを大前提にシューズづくりをされています。そのため、マメや靴ずれなどの、いわゆるスキントラブルのリスクを減らすことにも重きを置いているんです。それで、通気性や軽さ、しなやかさなどを何度も確かめ、福井県の工場で1から織り上げたオリジナルのメッシュ素材を使っています。

ラスト部分にこだわった甲斐もあって、パッと足を入れた瞬間の履き心地の良さがかなりアップしたと感じています。実際に履いた選手たちからのフィードバックもぐんとよくなりました。

──ソールにも変更点はありますか?

V1のミッドソールでは、反発性の高い「RAPID REBOUND(ラピッドリバウンド)」と軽量な「REV LITE(レブライト)」の二層構造にすることで、反発弾性と軽量化を両立させていました。
今回のV2は、「REV LITE(レブライト)」の素材配合を見直し、改良することで、単一素材の一層構造を実現しています。ソールについて三村さんに相談したところ、「二層よりも一層のほうが、接地時の感覚にもバラつきが出にくくケガのリスクも下げられる」ということだったので、完全に新しい配合のソールを開発しました。

──新しい配合のソールを生み出すうえでどんなところが大変でしたか?

反発性を上げるのが難しかったですね。というのも“反発性”には2種類あって、ひとつは、単純に素材自体に圧をかけたときにぐにゅっとへこんで、その反動でぽんと弾む反発性。もうひとつは屈曲弾性といって、曲げたときの復元力で力が生まれる反発性です。そして、この2種類を両立させるのは、技術的に難しいことなんです。とくに屈曲弾性は、曲げれば曲げるほど素材に負担がかかって、どんどんシワになるなど、劣化もしやすくなります。それをできるだけ劣化しないように、2種類の反発性を共存させることで、弾むような走り心地を実現させました。
三村さんは、シューズの素材開発などにも自ら携わってきた経験をお持ちなので、配合面のアイディアやアドバイスもいただきながら、つくりあげることができました。今後、この新しい「REV LITE」が、ニューバランスが持つミッドソール素材の大きな柱のひとつになっていくのではと感じています。

アウトソールには、今回も「DYNARIDE(ダイナライド)」が使用されている。スパイクのように地面を掴み、強い蹴り出しをサポート。

──HANZO V2はどんな人におすすめですか?

HANZOシリーズは、「勝ちたい」という思いを胸に、目標の達成を目指して努力を重ねている人に向けたシューズです。レースでも、自己記録でも、部活やチームのなかで一番になることでも。目標は人それぞれあると思います。 HANZO V2では、「フルマラソンで2時間半を目指すエリートランナー向けは“HANZO S”を」「3時間半を目指すシリアスランナーには“HANZO R”を」と、一応タイム軸の目安を設けてはいますが、目標に応じて自分に合ったものを選んでいただければと思います。

今のところは、“S”も“R”も、レースで走ることをターゲットにしたモデルですが、ゆくゆくは健康的に日常生活の一部として走ることを楽しみたいとき用のモデルにも、三村さんのエッセンスを入れながらアップデートしていければとイメージしています。

三村さんは、「常に新しいものづくりをトライしたい」という考えを持つ方です。これまでに積み上げてきたデータや技術によって、三村さんとしての“ベーシック”を確立させながらも、素材やラストの設計など、どんどんブラッシュアップを重ねて常に新しいものづくりに挑戦しています。ものづくりには、ゴールがないんです。 だからこそHANZOシリーズも、今回のV2で大きな進化を遂げられたのはもちろんのこと、今後さらに進化を重ねていければと思います。

──「足を大切に、ケガなく練習を重ねてこそ目標達成に近づく」という考えのもとシューズをつくり続けてきた、ニューバランスと三村さん。今回、双方の技術力がコラボしたことで、履き心地のよさがぐんとパワーアップしたのですね。三村さんは、多くの人が憧れを抱く“伝説のシューズ職人”。今回のHANZO V2では、私たち一般ランナーもその履き心地を体感できるなんてうれしいです。今後、さらに幅広いレベルのランナーに向けたシューズも展開されていくとのことなので、楽しみです!

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