【テクノロジー図鑑vol.18】アキレス『MEDIFOAM(メディフォーム)』編─ランナーの実体験と素材開発力によって生まれたPUソール
長年愛され続ける有名プロダクトから、あっと驚く新製品まで─ランニングにまつわる気になるテクノロジーを紐解く、スポリートの“テクノロジー図鑑”。第18回目のテーマは、アキレスの“走るリカバリーシューズ”『MEDIFOAM(メディフォーム)』です!
ランナーにとって厄介な悩みの種といえば、「ランニング障害」。せっかく走り始めたのに、かえって足腰を痛めてしまってはもったいないですよね。そこで、ケガのリスクをできるだけ減らして楽しくランニングを続けたいという人にも、すでに痛みに悩まされている人にも寄り添ってくれるシューズが「MEDIFOAM(メディフォーム)」です。“走るリカバリーシューズ”をコンセプトに、優れた「衝撃吸収性」「反発弾性」「耐久性」によってランナーの身体にかかる負担を軽減しながらスムーズな走りをサポートしてくれます。
今回は、メディフォームを生んだアキレス株式会社にお邪魔し、誕生のきっかけや特徴を詳しく聞いてきました。
アキレスが誇るポリウレタン開発技術を、ランニングシューズに
──メディフォーム誕生のきっかけを教えてください。
アキレスといえば子ども用の運動靴や上履きなどをイメージする方も多いかもしれませんが、当社はもともとゴムやプラスチックなどの素材開発を行ってきた化学メーカーです。ウレタン製品の開発にも力を入れていて、寝具や建築用資材など、幅広い製品を生み出してきました。
そういった背景のもと、日本で続々とランナーが増えたことで「ポリウレタン素材を活用してランニングシューズを作れないか」というアイデアがあがり、2012年ごろにプロジェクトが始まりました。
──「アキレスの素材開発技術をランニングシューズにも活用していこう」というアイデアがきっかけだったのですね。
そうなんです。当初は「リカバリーシューズ」というコンセプトも決まっていませんでした。このコンセプトは、私自身のランナーとしての実体験によって、開発を進めるうちに生まれていったものなんですよ。
メディフォームのプロジェクトリーダー・津端裕さん。子どもたちに大人気のシューズ「瞬足」の生みの親でもある
「走りたくても走れない」つらさを実体験したから
──津端さんご自身のどんな体験が、「リカバリーシューズ」というコンセプト誕生につながっていったのですか?
私が日常的にランニングをするようになったのは、2004年ごろ。きっかけは、仕事が忙しくうつ病になってしまったことでした。病院の先生に「ランニングなどで身体を動かしてみてはどうか」と言われたんです。いざ始めてみると心と身体が少しずつ楽になっていくような気がして、仕事の合間や週末にどんどん走るようになりました。そのうち大会にも出るようになり、初めてのフルマラソンは運良く当選した2007年の第一回東京マラソン。なんと3時間半ほどで完走できました。自信もついて「これは面白いな」と、さらにのめり込んでいったんです。
それで、「もっと速くなりたい」と思っていたのですが…自己流でハードなトレーニングを続けるうちに、ケガをしてしまって。2009年に出場したレースでは途中で坐骨神経痛が出てしまい、右足を引きずってゴールしたこともありました。それ以降は走りたくても走れず、ランニングを止めざるを得なくなってしまったんです。
──そんなときに、ちょうどランニングシューズの開発が始まったのですね。
はい。開発がスタートして2〜3年ほどは、私がひたすら試作品を履いてみて改善点を見つける…という繰り返しでした。そんななかで、初めはケガの影響もあり歩くくらいのスピードでしか走れなかったのが、ソールが改良されるごとに少しずつ身体の調子が良くなっていったんです。それで、「走りながらでもリハビリできるのでは」と考えるようになりました。シューズも身体も、互いにどんどん良くなっていく喜びを身をもって体感でき、とても楽しみながら開発に携わることができました。
そしてついに2015年には再びフルマラソンに挑戦できるほどになり、当時の試作品を履いて出場してみた結果、すごく気持ち良く完走できたんです。後半にペースを上げられたのはこのときが初めてで、35km以降の道のりが本当に楽しくて。この復活レースを機に、「これは商品化できる」と確信しました。
実際に津端さんが履いてきた試作品のメディフォームたち
──発売されてからの反響はいかがでしたか?
メディフォームが誕生して2年ほど経ちましたが、多くのユーザーさんから嬉しい声をいただいています。どんなシューズを履いてもだめで、お医者さんに「もう走るのをやめるしかない」と言われていたのに、メディフォームを履いてまたフルマラソンを完走できるようになったり。私と同じような体験をしてくださる人が想像以上に多くいると感じています。私自身、走りたくても走れないつらさや悲しみを身をもって体感したことがあるからこそ、メディフォームを履いて、走ることの楽しさを再び感じられる人が増えていくことがすごく嬉しいですね。また、ケガのリスクを減らして長くランニングを楽しめるよう、初心者ランナーの皆さんにもぜひ履いてもらえたらと思います。
卵を落としても割れずに跳ね上がるほどの「衝撃吸収性」と「反発性」
──メディフォームの肝になっている「ポリウレタン」の、素材としての強みはどんなところにあると思いますか?
ポリウレタンは、薬剤を混ぜ合わせることで作られます。配合を試行錯誤するのは大変ですが、そのぶん材料の組み合わせ次第でさまざまな特性を発揮させられるのが魅力です。「身体を支える」という面でシューズとの共通点も多い寝具や、かなりの強度が求められるトンネル補修にもポリウレタンが使われているように、本当に幅広い可能性を秘めた奥深い素材なんです。
──メディフォームにおいては、どんな面でポリウレタンの特性が活かされているのでしょうか?
ミッドソールを独自のポリウレタン素材で形成していて、「衝撃吸収性」「反発弾性」「耐久性」のすべてで高い基準値をクリアしています。このような高い性能を持つ素材は、ポリウレタン研究を続けてきた当社だからこそ実現できたことだと思っています。また、完成度を高めるためには製造工程でも繊細なコントロールが求められるため、日本国内の工場で生産しています。
──履き心地にはどんなふうに特徴が表れていますか?
きちんと衝撃吸収性がありながら、沈み込むような感覚があまりないというのが、メディフォームの特徴のひとつかもしれません。短い接地時間でポーンと反発力が発揮されるので、効率的で負担の少ない足運びをサポートしてくれます。10mの高さから厚さ約30mmのメディフォームシートに生卵を落としても、割れずに5m以上の高さまで跳ね上がるという実験結果も得られているんですよ。それだけ、衝撃吸収性と反発性の両方が高いということです。
──メディフォームはカラフルな色使いなどデザインも特徴的です。このあたりにもこだわりが詰まっているのでしょうか?
はい、デザインもこだわったポイントです。さまざまなスポーツブランドさんがランニングシューズを出しているなかで手に取ってもらうには、目をひくような新しいデザインが必要だと考えました。そこで、思い切った色や柄を採用しています。一番人気なのはレインボーカラーのデザインです。
──2017年にメディフォームが誕生してから、現在発売されている2019年の春夏モデルまでに、進化を遂げたポイントはどんなところですか?
主にアッパーの構造面で、細かい部分の調整を重ねてきました。たとえば、かかとのパッドにより厚みを持たせて履き心地や耐久性をアップさせるなどの改良を加えています。フィット感を上げることによって、ソールの機能もさらに実感しやすくなっているはずです。ほかにも、より効率的に衝撃を逃がし、摩耗も防げるよう、アウトソールの溝の深さや意匠も調整を重ねてきました。
──今後さらに、メディフォームをどのように進化させていきたいですか?
先ほど、「高い衝撃吸収性がありながら、それほど沈み込む感覚が少ない」という履き心地の特徴をお伝えしましたが、これを「硬い」と感じてしまう人も少なからずいるようです。もちろん、それでも衝撃吸収性は備わっていますが、より多くのランナーに履いてもらうには、まだ改良の余地があるのではと考えてきました。そこで、次のモデルではポリウレタンの配合を工夫し、高い性能はそのままに、履き心地をさらに良くできればと思っています。すでに開発は進んでいて、実現できそうという手応えも生まれてきたところ。今後も、メディフォームの進化を楽しみにしていただけたら嬉しいです。
──津端さん、貴重なお話をありがとうございました! アキレスが誇る素材開発力と、津端さんのランナーとしての想いによって生まれたメディフォーム。ランニング障害に悩まされている人は、ぜひ履いてみてはいかがでしょうか? ケガのリスクを減らすサポートもしてくれるので、ランニング初心者の方にももちろんおすすめです!