【テクノロジー図鑑vol.26】カルフ『フルクラム』編─逆三角形のパーツがカギ! スムーズな足運びと安定性を実現するテクノロジー

シューズ テクノロジー図鑑

長年愛され続ける有名プロダクトから、あっと驚く新製品まで。ランニングにまつわる気になるテクノロジーを紐解く、スポリートの“テクノロジー図鑑”。第26回目は、フィンランド発ブランド『カルフ』のランニングシューズに搭載されているテクノロジー『フルクラム』にフォーカスします。

フィンランド発祥で100年以上の歴史を持つブランド『カルフ』。フィンランドは陸上競技が盛んで世界を席巻していた時代もあり、当時活躍していたフィンランド人陸上選手たちは“Flying Fins”といった異名で呼ばれていたほど。
そんなフィンランドで進化を続けてきた『カルフ』の歴史や、最新のテクノロジーについてお話を伺ってきました。

フィンランド発祥の歴史あるブランド

──まずは、カルフのブランド誕生の歴史を教えてください。

カルフは、1916年にフィンランドのヘルシンキで誕生したブランドです。
木材加工の小さな工房としてスタートし、当初はオリンピックで使用される円盤投げの円盤や、やり投げの槍といった競技用品を作っていました。
ちなみに、「カルフ」とはフィンランド語で「クマ」を表す言葉です。クマはフィンランドを代表する動物で、神聖な動物として大切にされてきた背景もあり、カルフの設立者がブランドのシンボルとして採用したと聞いています。

フィンランド語で「クマ」を表す「カルフ」

フィンランド語で「クマ」を表す「カルフ」

フィンランドは当時、陸上競技界を席巻していた歴史があり、その流れの中で自然と陸上競技のスパイクの需要も高まっていきました。そこでカルフも陸上スパイクの開発に着手したという歴史があります。Paavo Nurmiという選手は、カルフのスパイクを履いて生涯で12個のメダルを獲得し、そのうち9個が金メダルという偉業を成し遂げました。
その後、1960年代ごろにはスポーツ界での需要が徐々にランニングへと移行していき、カルフのランニングシューズの先駆けである「トランパス」(トレーニングシューズ)を開発。アーサー・リディアードという長距離界の名指導者に、「世界最高のトレーニングシューズ」という評価をもらいました。

このように、フィンランドが陸上界を席巻していた時代に実力ある選手から評価されるシューズを作れたこと、そしてランニングシューズへの移行のタイミングで影響力の高い指導者に評価をもらえたことが、カルフがリーディングブランドとしての地位を築けた要因になっているかと思います。
また、カルフでは「すべてのランナーにとってより快適に、楽しく走る」ことをコンセプトにしてきました。常に時代のニーズに沿って最先端のテクノロジーを開発し、搭載してきたところも評価された理由の一つかと思います。

シードコーポレーションの都築さん

お話を聞かせてくださった、カルフ(株式会社シードコーポレーション)の都築さん

時代に沿って最先端のテクノロジーを開発

──これまでカルフの進化を支えてきたテクノロジーについても教えてください。

「エアクッション」という、ソール内の空洞がうまく縮むことによってクッション性を増すという構造をランニングシューズ界で先駆けて開発し、1975年に誕生したモデルに搭載されました。今はランニングシューズには搭載されていませんが、カジュアルシューズにはエアクッションが搭載されたモデルが今も展開されています。

エアクッションが搭載されているモデル「チャンピオンエア」

エアクッションが搭載されているモデル「チャンピオンエア」

「チャンピオンエア」かかとの部分に空洞がある

かかとの部分に空洞がある

その後、1986年に「フルクラムテクノロジー」を、ユヴァスキュラ大学というスポーツサイエンスで権威のあるフィンランドの大学と共同開発しました。「ランニングは、アップダウンではなく前に進むもの」という信念をもとに、足の運びをスムーズにしてくれるテクノロジーとして開発されたものです。「フルクラム」は「支点」という意味です。逆三角形のパーツをミッドソールへ搭載し“テコの支点”にすることで、体重移動をスムーズにしてくれます。また、ミッドソールの構造によって上下や左右へのブレを抑えてくれるというメリットもあります。そのおかげで効率の良い走りができ、ブレによる疲労も軽減してくれるため、スムーズに疲れにくく走ることができるようになるのです。

フルクラムのパーツ

フルクラムのパーツ(モデルによって形状・カラーが異なります。)

──フルクラムが搭載されているランニングシューズにはどんなモデルがあるのでしょうか?

カルフのランニングシューズには全てフルクラムが搭載されています。モデルは3種類あり、「IKONI ORTIX(イコニオルティックス)」はスピードモデル、「FUSION ORTIX(フュージョンオルティックス)」はバランスモデル、そして「SYNCHRON ORTIX(シンクロンオルティックス)」はスタビリティモデルとなっています。ただし、タイム軸のレベル分けはあくまでも目安です。全モデル、どんなランナーの方に履いていただいても機能を発揮できる作りになっているので、初心者の方でもスピードに乗って走りたいという方はイコニオルティックスを履いてもらっても全然構いませんし、安定感を求める方はフュージョンオルティックスやシンクロンオルティックスを選んでいただければと思います。

──モデルごとに、搭載されているフルクラムのパーツにも何か違いがあったりするのでしょうか?

フルクラムのパーツの長さを変えています。短いほうが支点から頂点までの距離が短いので、より前に身体を運ぶ力が強くなり、スピードに乗ることができます。イコニに搭載されているのは一番短いタイプのパーツです。フュージョンオルティックスに搭載されているハーフレングスのものは、三角形の辺が少し長くなるため、推進力に加えて安定感があります。シンクロンオルティックスに関してはソール全体にかかる長さであるフルレングスのフルクラムが搭載されていて、より安定して長い距離を走れるようになります。

目的に応じてフルクラムのパーツの長さを変えている

求める機能に応じてフルクラムのパーツの長さを変えている

──この3つのモデルにはすべて名前に「オルティックス」と入っていますが、これにも何か意味があるのですか?

「オルティックス」もテクノロジーのひとつで、ミッドソールの形状のことを言います。ランニングシューズのミッドソールは平面でできているものが多いかと思いますが、カルフのランニングシューズに関しては、足裏の凹凸に合わせてフィットするような構造になっていて、よりフィット感を意識して作られています。
カルフのポリシーのひとつである「すべてのランナーにとってより快適に、楽しく走る」ことを追求した結果、フルクラムとオルティックスに行き着き、現在のテクノロジーの軸となりました。
ちなみにソールには「エアロフォーム」という独自の素材を使用していて、ランニングシューズのソールの主流であるEVAと比べてより柔らかく耐久性もある、というメリットもあります。

独自素材「エアロフォーム」

独自素材「エアロフォーム」

それからもう一つカルフのシューズの特徴として「fit id™」というものがあります。フットスキャナーによって集められた数十万人分の膨大な足型3Dデータをもとにラストを作り、あらゆるランナーに向けて足を包み込むようなフィット感を実現しています。オルティックスのフィット感と合わせて、アッパーとソールの一体感を感じるといったうれしい声も多くいただいています。

膨大な足型3Dデータをもとに作られたfit id™

膨大な足型3Dデータをもとに作られたfit id™

──日本のランナーにカルフのシューズをおすすめするときにぜひ伝えたいポイントを教えてください。

大きくわけて3つあります。
まずは、100年の歴史を持つブランドだということ。最初は陸上スパイクから開発を始め、数多くの一流ランナーに靴を履いてもらってきたブランドということは、強みだと思っています。
もうひとつは、フルクラムの機能。世の中のランニングシューズには、クッショニングや反発、厚底、薄底……など、それぞれアピールポイントや特徴がありますが、フルクラムのようにパーツを使って全身運動をスムーズに行うという機能はなかなかないテクノロジーです。
もうひとつは、北欧ブランドならではの色使いやデザイン性です。最近ではランニングシューズをタウンユースとして履いている方も多く、カルフのシューズはそういった使い方にもマッチするデザインになっているかと思います。

カルフは他社さんに比べるとまだまだ知名度が及ばないブランドだと思っているので、まずはファン層の方に愛されるランニングシューズを目指していきたいと考えています。一度履いてもらえれば、きっと機能性を体感していただけると思うので、これからランニングイベントでの試履会など、履いていただく機会も増やしていきたいです。「すべてのランナーにとってより快適に、楽しく走る」のポリシーのもと、今後もランニングを楽しんでいる方たちのサポートをしていきたいと思います。

──フィンランドで誕生し、100年以上の歴史を持つカルフ。世界で活躍してきたトップアスリートに評価されてきた経験や、ポリシーのもと追求されてきたテクノロジーが、高い品質のシューズを生み出し続けています。ぜひみなさんも「フルクラム」が搭載されたシューズで、自然と足が前に出るような走り心地を体感してみてはいかがでしょうか?

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