【監督対談 vol.1】市民ランナー必見!タイムを上げるために必要な練習と、アドバイザーの必要性とは?/榎木和貴(創価大学陸上競技部駅伝部監督)×町野走一(頂プロジェクト監督)

特集 監督対談

2020年の第96回箱根駅伝において、初の1区の区間賞、初のシード権を獲得した創価大学。2019年に駅伝部の監督に就任した、榎木和貴監督による指導力に一躍注目が集まりました。スポリートで運営する「頂プロジェクト」の町野走一監督とは旧知の中で、互いにランナーを育てることをミッションとしています。そんなお2人がどういう育成論を持っているのか、またスポリートとしても市民ランナーの練習に通じるヒントも得られるはずと、箱根駅伝前のお忙しいところで時間をいただき、共通項を軸に対談していただきました!※この取材は2019年12月に行われました。

「選手時代の経験は指導に役立っていますか?」(町野) 「大学生の選手相手には、一人ひとりに寄り添う指導を意識します」(榎木)

町野 : まずは榎木監督のことを少しスポリート読者にご紹介する必要があると思うのですが、実業団の旭化成等の実業団チームでランナーとして活躍され、トヨタ紡織の監督を務められたあと、創価大学の駅伝部の監督になられたのが2019年の2月からですね。自分も創価大の選手は仕事で見ているのですが、今年は各選手の成績も上がって箱根駅伝の予選会も突破し、皆の雰囲気もガラッと変わったように感じます。長距離って練習自体はセオリーを大きく変えられるものではないので、指導方法が素晴らしいのかなと思うんですが、ご自身の選手時代のことがベースにあったりするのでしょうか?

榎木 : 実業団と大学はかなり世界が違います。実業団は基本的にエリート。選手も経験値があるのでコーチングがすべてに渡って大きく影響する世界とはいい難いところがあります。旭化成は宗兄弟という素晴らしい方がおられて、彼らが作り上げてきた成功のメソッドがある。それに沿ってやる形です。ただ、自分は選手としてはそこにはうまくハマりませんでした。一律ではなく、選手それぞれに合った指導こそいいところを引き出せると思いましたし、自分が指導者になったときは選手に寄り添って、相手の意向を聞きつつやっていきたいと思っていました。

町野 : では今は個々の選手に寄り添うことで、説得力ある指導ができているということでしょうか。

榎木 : 強制はせず、ある程度自分で目標を決めてそこに向かわせるようにしています。大学ならやはり箱根駅伝出場というのが大きな目標としてあります。各選手はそのために自己記録更新など、個人目標に向かってしっかり準備ができるかどうか、投げかける感じです。私からは目標を聞き、そのための練習メニューを提供し、声をかけています。その点ではすでに自分のやり方が確立している実業団選手と違ってやりやすいですね。創価大は時間があっても距離を走れていない選手も結構いたので、今は月間750kmを目安として走らせています。

町野 : 榎木監督のいいところは、ご自身も走られていることではないでしょうか。以前学生と話をしたとき、「榎木さんがこれだけ走っているのだから、自分もやらないと」と言っていましたよ。そういう風に言える関係ができているんだなと感じました。

榎木 : 私自身走るのが好きというのはありますが、自分が走り続けることで選手も意識してくれるといいなと思い、走っているところはありますね(笑)。今はガーミンを使って私を含め、部員の月間走行距離を一覧で見られるようにしています。全員がどれくらい走っているのかわかるので、それがいい刺激にもなっていますね。

町野 : 文明の利器を取り入れることが、いいコミュニケーションにもなっているんですね。

「ランナーには走っている距離が適正か、助言者が必要だと思う」(町野) 「基本として練習の質を高めることを大事にして欲しい」(榎木)

町野 : ここからがスポリート的には本題になるかと思いますが、大学と市民ランナーでは練習時間も走行距離も違いますが、榎木監督の指導から、市民ランナーにも参考になることがあるのではないかと思うんです。今のガーミンの話もそうです。

榎木 : 道具をうまく使うのは必要だと思いますね。ガーミンなどはプログラムを作れば遠隔でも様子がわかりますし、これからも性能が上がっていくはずですので、もっといろんなことができるかもしれません。

町野 : そこは自分もコーチングをする上ではもっとやっていきたいですね。あとは、市民ランナーは距離信仰といいますか、距離を走っていないと不安に思う人が多いのはどう思われますか?

榎木 : 毎日走らないことが不安要素になってしまうランナーっていますからね。大学生にも休むことでメンタルがマイナスに働く人もいます。

町野 : 市民ランナーは走りすぎというと語弊がありますが、時間が限られているせいもあるのか、勤勉でよく走るんです。でもその人に適正な距離を走っているかどうかはまた別問題です。そこはよく考えてもらいたいなと思っています。今は雑誌をはじめいろんなメディアで「こうすればサブ4はできる!」みたいな言葉が溢れています。情報がたくさんあるので、市民ランナーは情報に貪欲だけど、どれを信用すればいいのかわからないのかな。でも榎木監督のお話を聞いていると、やはり身近で信頼できる人が言ってくれることをこなすのが一番いいんじゃないかとも思います。だって雑誌は答えをくれませんからね!

榎木 : そうだと思います。今ならそれこそランニングクラブもたくさんある訳ですし、町野さんのようなコーチから助言を得ることは可能ですよね。ランニングを長く楽しむためには100km走ることが大事なのではなく、走った結果が100kmだった、というのが理想的です。

町野 : ただ、サブ4を切りたいというランナーはとても多いんです。楽しく走ってサブ4.5というのはいけると思います。でもそこで頭打ちになってしまいがちです。どうすればいいと思いますか?

榎木 : そこからサブ3.5やサブ3を目指す練習とは?ということですよね。大学生で箱根を目指すとなると、最低限の距離は走らないと足ができないので簡単には比較して言えません。でもどのランナーに対しても言えるのは、最終目標が何なのかを明確にして、それに対して練習の質を上げていくことがすべてだということです。市民ランナーはジョックのペースを10秒上げるとか、距離を少し増やすといったことが基本になると思います。あとはインターバルを設けて休養を取ることです。それで怪我のリスクも減ります。休みたがらない人にはそれを理解してもらいたいですね。開き直りといいますか、最低限ここまでやっていれば大丈夫、と思うことが大切です。

町野 : 市民ランナーでサブ3.5を目指すなら月間200kmから250kmの走行距離が必要だと一般的には言われますが、それって絶対じゃないですよね。でも日本人はどうも距離に対して強迫観念があるので、脚が痛くても走行距離をこなそうと走って故障したり、そのせいでフォームのバランスを崩したりしてしまう。だったら距離を増やすのではなく、10秒速い設定でジョックをこなす方がいいのは確かですね。

榎木 : 箱根のためにそれ相応の足づくりなどは行いますが、私は選手が必要な休養を取っている場合は特に強制はしません。走れるのにやっていないというのなら別ですが、こちらがやらせるのは管理でしかないですからね。自分で考えて行動に移して欲しいというのが本音です。でもやりすぎている選手にはセーブさせます。そこは監督になるときにも皆に理解させました。そうした指導法のおかげなのか選手が自分を信じてやってくれて、今年は4月から部員42名中30名が自己記録を更新しました。

町野 : それはすごい数字ですよ!榎木監督のお話を聞いていると、やはり身近で信頼できる人が目標に近づく適正ルートを示してくれることの大切さを感じます。ランナーにはパートナーやコーチって必要ですね。

榎木 : そうだと思います。自分は時間を見つけてみんなに声をかけるようにもしています。メニューも可能な範囲で個人向けのものも作ります。それだけで選手のモチベーションも変わりますね。どうやれば結果につながるのか探りながらですが、楽しみながらやっています。その結果としてみんなが記録を出してくれているのは嬉しいですね。

「市民ランナーも含め、広くランナーを取り込む活動を大学でもしてみたい」(榎木) 「頂プロジェクトの練習会もぜひ創価大でやりたいです!」(町野)

榎木 : 将来的にはうちの施設を使って教室はやりたいと考えているんですよね。市民ランナーが参加できるタイムトライアルなんかをやってもいいなと思うし。やはり数字が見えるとタイムは上がるので、モチベーションが上がりますし、指標も上がりますよね。うちの選手も参加できるといいし、ジュニアの選手や市民ランナーも含めて、広くランナーを取り込んだ活動をしてみたいです。

町野 : いいですね!「頂プロジェクト」の練習会をぜひ創価大でやりたいです。

榎木 : 市民ランナーは吸収力があるので、そういう刺激があったら自分のものにしていくと思うんです。あとはもっと陸上を見たり、応援したりする文化は作りたいですね。箱根駅伝は影響力も大きいので、学生には「お前たちはみんなの夢を乗せて走っているんだぞ」とよく言うんですが、実際に人に夢を与えるし、選手のモチベーションにもなる。

町野 : 憧れを持つのは大事ですしね。MGCは盛り上がりのいい例の一つでした。他の日本選手権やトラックレースだって、そういう風になっていければいいし、走る人が増えればいい選手も増えるはずですしね。

榎木 : そのほかにも親子で大きな大会を見に行って、親が選手について教えてあげたり、また大会に出るときも親だけが楽しむのではなくて、子どももできるようなメニューがあって、家族で引き込んであげるような仕組みもあるといいかもしれないです。そういうことをしていくと理想とするような環境に近づいていくのかもしれません。まずは箱根で結果を出したいですが、時間を見つけてこうした活動について可能性を探っていきたいですね。

町野 : 期待しています。ぜひ一緒に何かやってみたいし、箱根も頑張ってください!

Spoleteランニングクラブ 頂プロジェクト

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