【テクノロジー図鑑vol.31】『On』編―クッション性と反発力の融合を実現!Onのテクノロジーが走ることを楽しくする!

シューズ テクノロジー図鑑

長年愛され続ける有名プロダクトから、あっと驚く新製品まで。ランニングにまつわる気になるテクノロジーを紐解く、スポリートの“テクノロジー図鑑”。第31回目は、2010年にスイスで創業し、またたく間に知られるようになった、世界で最も成長率の高いランニングブランドともいわれる『On』にフォーカスします。

Onのシューズといえばやはり、ソールの形状。横から見ると穴が並ぶような不思議な形に、どうなっているんだろう?と思った人は多いはず。この、クッション性はあるのに反発性も高いという両立を果たした独自の特許技術、「CloudTec®(クラウドテック)」や長年の研究の末に生まれた独自素材「Helion™(ヘリオン)スーパーフォーム」等について、オン・ジャパンのテックレップマネージャー・南波勉さんにお聞きしてきました!

アスリート創業者が心地よい走りを目指して生まれたスニーカー

──Onはどのようにして生まれたのでしょうか。

南波:Onは2010年にスイスで創業しました。3名の共同創業者、キャスパー・コペッティ、オリヴィエ・ベルンハルド、ディビット・アレマンが立ち上げたブランドです。中でもシューズ開発担当のオリヴィエはデュアスロンで3度世界チャンピオンになったこともあるトップアスリートで、大のシューズ好き。今もシューズのテストランナーとしても欠かせない存在です。彼は現役時代、アキレス腱の炎症による痛みに苦しんでいました。いろんなシューズを試していくものの、痛みを和らげてくれるような理想のシューズには出会えず、だったら自分で作ろうとなったんです。

──悩み解決がきっかけだったんですね。ブランド名の由来についても知りたいです。

南波:ランニングを楽しくするというのが、我々のコーポレーションミッションにあります。そしてスイッチをオフの状態から、ランニングでオンにする、そんな意味も込めてロゴの「O」には、スイッチのツマミをつけたようなデザインになっています。

On シューレース部分

シューレースの一番上には、左右で「O」と「N」マークの金具があしらわれているモデルも。

──この突起部分、気になっていたんですが、そういう意味が込められていたんですね!そして、このアウトソール形状はどんなふうに生まれたんでしょう?

南波:オリヴィエはもともとシューズが好きで、履きつぶしたシューズをバラバラにすることもしていたというので、ものづくりに興味があったんだと思います。そしてシューズ開発の課程では身近にあるものを靴底にくっつけて、いろいろ試したそうです。Onの特徴ともいえるソール形状、何かに似ていると思いませんか?

──何でしょう…ホースを半分にしたような?

南波:まさにその通り!着想はホースでした。最初は本当にホースを輪切りにしてくっつけた試作品で走ってみたそうです。接着剤でくっつけただけなので、10mも走ると壊れてしまったそうですが、その10mがオリヴィエに与えたインパクトはとても大きなものでした。足の痛みもなく、すごく良い感触で、今でもそのときのことは「忘れられない」と言うほど。これがオン独自のテクノロジー、CloudTec®の出発点です。

反発性があるのにクッション性もある!? 世界特許技術CloudTec®とは

──Onのテクノロジー、世界特許技術であるCloudTec®について教えてください。

南波:Onでは素材開発より、エンジニアリングに重きを置いてきました。素材開発のみに注力しても、当時の技術ではOnが目指すランニング体験は実現できないと考えていました。そうして生まれてきたのがCloudTec®です。通常、シューズにおけるクッション性と反発性は相反するものです。クッション性を高めると柔らかさによって反発力は弱くなり、クッション性を少なくすると反発性は上がりますが地面から受ける衝撃も強くなり、足に負担がかかります。この両立は極めて難しく、この両方を完全に実現できる素材は存在しませんでした。だからメーカーではスピードやペースによってシューズをカテゴライズし、キロ6分用、キロ4分前後用などと分けて開発しているんです。

──Onはどう違うのでしょうか。

南波:Onがこれまでのシューズと違うのは、この問題解決を素材ではなく、構造で考えたことです。アウトソールの構造でクッション性と反発性を融合させることに世界で初めて成功しました。

一つ一つのパーツが独立した3D構造のCloudTec®は、着地の瞬間にパーツが潰れてクッションになり、衝撃を吸収します。そして形が元に戻る力が前へ足を蹴り出すサポートをしてくれます。従来のシューズだと着地の瞬間にブレーキがかかり、その分、次の動作に移る際に膝などに負担がかかります。しかしこの構造だと潰れたパーツが元に戻る力が働くので、自然に前に進むことができるんです。しかも、一つ一つパーツが独立しているので、それぞれのランナーの走り方や着地の仕方を選びません。通常のランニングシューズは理想的な足運びを誘導するような構造に設計されています。つまり、シューズが足運びを決めるんです。しかしOnのシューズは例え足が斜めから着地しても、独立したパーツが無理なくその癖を受け止めます。靴の構造通りの足運びでなくても、ランナー個々の走りの癖を尊重しつつ足を導いてくれるんです。

On アウトソール

パーツが一つ一つ独立。パーツとパーツの間は台形状になっているので、異物は挟まりにくい。

On アウトソール 溝のデザイン

モデルによって違う細かな溝のデザインで、排水構造などが少しずつ異なる。ソールには雲のマークがあり、これが消えたらシューズの替え時サイン。遊びゴコロが見え隠れする細かなデザインも楽しい。

──Cloudという言葉が走り心地を想像させてくれますね。シューズ別のペース設定はあるんですか?

南波:クッション性と反発性、両方を併せ持っているので、Onのシューズにはペース設定はありません。ランニングの初心者からフルマラソンに出るようなランナーまで、全員が同じシューズを使えることが特徴です。CloudTec®はまさに最強の形状であり技術といえます。

──気に入ったものをどれでも履ける、というのはユーザーにとっては迷いも少なく、嬉しいです。

南波:また、Onの推進力を生み出すものとしてもう一つ、ソールにはスピードボードという、足型の板バネが内蔵されています。このスピードボードがしなって戻るときのパワーが、着地から蹴り出しを助けてくれる構造になっていて、CloudTec®の反発力と相まって、より前に進むための推進力になっています。プレートの反発力を生かしたシューズは最近の流行になっていますが、Onでは6年前からこの構造を採用しているというのもポイントですね。

シューズの中に仕込まれているスピードボード

中に仕込まれているスピードボードはしっかりした硬さ。

創業10年の節目に誕生した独自素材・Helion™ スーパーフォーム

──優れた構造で独自の地位を築いてきたOnですが、新しい素材も生まれたとか。

南波:常に改善して、より良いものを目指すというのがOnの企業文化です。ランで生まれるエネルギーをいかにより多くの推進力に変換するか、その理念に基づいて創業10年目に生まれたのが、自社開発した素材、Helion™です。

──独自素材を作るのはかなり難易度が高いのではないでしょうか。

南波:独自素材を作りたいというのは、長年ブランドとして持っていました。素材の改良を重ね、ようやく理想的なものとして生み出すことができました。これも最初のCloudTec®と同じやり方ですね。ありとあらゆる素材を混ぜ、冷やしたり熱を加えたり、あるいは硬い素材に柔らかい素材を混ぜたり、泥臭く試行錯誤を繰り返して作り上げました。

──開発までには時間もかかっていそうですね。

南波:毎年新しいものを発表するというよりも、良いものができたときに発表するのがOnの姿勢です。より良いものを追求し続け、10年目にしてその成果をお届けする形になりました。

──Helion™はどんな特徴を持っているのでしょう。

南波:一言でいうと、クッション材に必要な要素をすべて持ち合わせています。高い反発性を備えつつクッション性があり、軽量で温度変化に強く、また耐久性もあるまさに“スーパーフォーム”です。夏や冬といった季節の温度変化に反発力が左右されず、しかも軽さを備えている素材は他メーカーでもなかなかないと思います。

──もともと優れた構造を持っていたシューズに素材の強みが加わって、まさに鬼に金棒といったところですね。

南波:今後、現行品の素材も順次このHelion™になっていくので、楽しみにしていて欲しいです。

石井スポーツ吉祥寺店 Art スポーツ

On製品を数多く取り揃えている、石井スポーツ吉祥寺店のArt スポーツ。

一人でも多くの方に、Onのシューズを楽しんでもらいたい

──ランナーにおすすめのモデルを教えてください。

南波:「クラウドスイフト」はOnのパフォーマンスラインの中心となる、次世代のコア・コレクションのひとつです。2019年に発表されたHelionTMを搭載した最初のモデルで、ファッションとラン、どちらにもアプローチできるアーバンランニングをコンセプトにしてデザインされました。

アッパーにはOnのエンジニアードメッシュを使用しています。これは部位によって編み方が異なるメッシュで、曲がって負荷がかかる部分は細かくしっかり編み、前足部はゆったりとさせるなどして、柔らかさとフィット感を兼ね備えています。シュータンの部分がアッパーと一体化しているブーツ構造なのでストレスがなく、足入れ感が柔らかいのも特徴です。中足部にはゴム製のメカニカルサイドバンドがあり、ホールド感もしっかりしています。ほかにもトレーニングやレース向けの「クラウドフロー」はランナーに根強い人気がありますね。

クラウドスウィフト

クラウドスウィフト ¥17,380(税込)

──7月末には新製品が出たとか。

南波:定番モデルの「クラウド」をベースにしたマルチスポーツシューズ、「クラウドX」のアップデート版です。これはランニングからダンスやジムなど、あらゆるフィットネスに対応したシューズです。アップデート版ではHelion™を搭載、二重構造のエンジニアードメッシュを使い、内側はソックス形状になっているのでしっかり足をホールドし、ヒール部に内蔵したパッドの配置の見直しをはかり、広めのソール幅となって安定性も高くなっています。軽くて自由度の高いシューズで、ランニング以外にもワークアウト全般、何にでも使っていただけます。Onのシューズらしく、色合いがどんな格好にも合わせやすいし、日常使いとしてもおすすめです。

クラウドX ¥16,830(税込)

クラウド クラウドX-Running Remixed

左がクラウド、右がクラウドX。最近のモデルはソールが広がり、より安定性が高くなっている。

──Onのシューズが今後どのように広がっていけばとイメージされていますか?

南波:現在のOnにはランニング、アウトドア、そして「パフォーマンス オール デイ」を合言葉にしたライフスタイルの、3つのカテゴリーがあります。最初は創業者のケガの悩みなどが出発点でしたが、今や日常で楽しんでいただける商品も揃い、ランナーでも、それ以外の方々にもどんな人にでも使っていただけるブランドになりました。個人的には走ってもいいし、普段のファッションでも履いてこんなにかっこいいブランドはないと思っています(笑)。一人でも多くの方にOnのアイテムを使用していただいて、ブランド名の由来でもある、楽しさを「オン」にしていただきたいですね。この楽しさを知れば、いつもの日常が今よりもっと快適に過ごせると思います。

──お話を伺ってテクノロジー以外にも、デザインや細かなこだわりがたくさん詰まっているOnの良さがよくわかりました。ありがとうございました!

取材協力

【アートスポーツ 吉祥寺店】
住所:東京都武蔵野市吉祥寺本町1-11-5 coppice吉祥寺B館 4F(石井スポーツ吉祥寺店内)
電話:0422-27-1231
URL:https://www.ici-sports.com/art_sports/shop/kichijyoji/

On取扱店

Onの商品はオンライン、または各種スポーツショップや百貨店といったランニング用品を扱う店舗で購入が可能です。近くの取扱店については、公式サイトから検索できます。また、2020年の6月にオープンしたアートスポーツのマロニエゲート銀座店(石井スポーツ内)では、スニーカーをはじめ、アパレルなどOnのすべてのカテゴリがラインナップされているそう。ぜひチェックしてみてください!

【On ウェブサイト】
http://www.on-running.com/ja-jp

【アートスポーツ マロニエゲート銀座店】
住所:東京都中央区銀座3丁目2番1号 マロニエゲート銀座2 7F
電話:03-5579-5050
URL:https://www.ici-sports.com/art_sports/shop/ginza/

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