【テクノロジー図鑑vol.1】ミズノ『ミズノウエーブ』編─“曲がりたくない方向には曲がらない”

シューズ テクノロジー図鑑

長年愛され続ける有名プロダクトから、あっと驚く新製品まで─ランニングにまつわる気になるテクノロジーを紐解く、スポリートの“テクノロジー図鑑”。第一回目のテーマは、『ミズノウエーブ』です!

ミズノウエーブは20年以上前に誕生し、時代とともに進化を続ける独自の“波形のプレート”。難しいとされていた安定性とクッション性の両立を実現し、レベルや世代を問わず幅広いユーザーに愛され続けています。実際に、ミズノウエーブが搭載されたシューズを履いているランナーの方も多いのではないでしょうか。
ランニング用に開発され、現在では野球、サッカー、テニスなど、ほかのスポーツ用シューズにも活用され、いまやミズノを代表するテクノロジーともいえるミズノウエーブ。その仕組みや、開発初期のエピソード、アップデートの過程などを聞いてきました!

着目したのは、“素材”ではなく“構造”

──さっそく、ミズノウエーブが安定性とクッション性を両立できるしくみについて教えてください!

まず、薄くて平らな一枚の樹脂プレートを思い浮かべてみてください。これに力を加えると、いろいろな方向に柔らかく曲がることが想像できると思います。

──身近な樹脂のプレートというと、“下敷き”が思い浮かびました。確かに、力を加えるといろいろな方向に曲がります。

ミズノウエーブも、簡単に言えば樹脂でつくられたプレートです。でも、波状の3D構造にすることで、「曲がりたくない方向には曲がらずに」「適度な反発を生む」ようになっています。ちなみに、こちらがミズノウエーブです。

──ソールの部分にこのプレートが挟み込まれているというわけなんですね! 薄くて軽いのに、力を加えてみると横方向にはほとんど曲がりません。これが「曲がりたくない方向には曲がらない」ということでしょうか?

そうなんです。着地のときに足が横方向にグラつくと、いわゆるオーバープロネーション(かかとが内側に倒れ込んでしまう状態)などが起きやすくなり、ケガにつながる恐れがあります。そこで、左右の動きに強い波形プレートがグラつきを抑え、安定性を高めているというわけです。

──クッション性に関してはどんなところがポイントになっているのですか?

波形の構造によって着地時の衝撃をバランスよく分散・吸収し、縦の圧力に対して柔軟性を発揮することでクッション性を高めています。さらに、立体的な構造のおかげでバネのような反発力を得られるという点も、ミズノウエーブならではのポイントです。

ミズノウエーブのクッション性と安定性を確かめられる器具を使わせてもらいました。こちらは横方向への曲がりづらさを実感しているところ。力を加えてもしっかりと安定して、グラグラしません。

こちらは縦方向への柔軟性を確かめているところ。力を加えると適度な柔らかさでしなります。

──クッション性と安定性を両立し、しっかりと反発性も生むことでスムーズな走りを助けてくれるのですね。

クッション性を高めようとソールの素材を柔らかくすれば、グラグラと安定性が失われてしまいます。一方で、安定性だけを高めようとするとソールが硬くなり、足に衝撃が伝わりやすくなってしまいます。このように、クッション性と安定性は相反する機能で両立が難しいとされていたんです。しかし、ミズノウエーブは素材だけではなく“構造”に着目し、クッション性と安定性を両立させることができました。着眼点を変えて、両立が難しかった機能をたった一枚のプレートで実現できたことが、ミズノウエーブの特徴であり、大きな魅力だと考えています。

競争が激化するなか、原点回帰して生まれた

──ミズノウエーブは20年以上前に誕生したとのことですが、どんなきっかけのもと開発が始まったのでしょうか?

1970年に世界的なジョギングブームが到来してから、徐々に日本でも、いわゆる市民ランナーが増え始めました。1980年代からは各シューズメーカーで、安全に走れるランニングシューズの開発が盛んに。これには、走り慣れていない人がランニングをするようになって、足腰を痛めてしまう人が多かったという背景があります。そこで、各メーカーはクッション性や安定性を高めようと試行錯誤をするのですが、先ほどもお話したように両立が難しかったわけです。そんななか、当時から科学理論に基づくシューズ開発が得意だったミズノは、ミズノウエーブの原型となる波型の構造設計を開始。1985年に『マジカルクロスミッドソール』を誕生させました。

お話を聞かせてくれた、グローバルフットウエアプロダクト本部 ランニング企画課の齊藤健史さん

──『マジカルクロスミッドソール』はどんなものだったのですか?

今のミズノウエーブとは大きく違っていて、樹脂ではなく不織布を使ったものでした。さらに、形状も今よりかくかくとした、四角に近い波形。ちなみに、波形の構造は、衝撃に強く安定性も高いトタン板やダンボールからヒントを得たと聞いています。たった一枚の不織布でクッション性と安定性を実現できたことは、とても画期的でした。しかし、見た目では違いがわかりづらかったため、ユーザーにアピールすることが難しく…。残念ながら、大ヒットとはいかなかったんです。

──その後、ミズノウエーブが生まれるまでにはどんな経緯があったのでしょう?

1990年代にはスニーカーブームも到来し、新しいシューズの開発において業界での競争がさらに激しくなっていきました。そのため、インパクトのある商品をどんどん生み出していた海外ブランドに対抗するため、ミズノも次々と新機能を開発していたんです。そんななか、“多くの人に履いてもらうシューズ”をつくるには、原点に立ち返ってランナーのニーズによりそい、さらにはシンプルでわかりやすく、世界と戦えるようなオリジナリティあるものを生み出す必要がある、ということになりました。そして、これまでに開発された機能から、クッション性と安定性を両立した機能を見直してアップデートすることに。結果的に、マジカルクロスミッドソールをリバイバルして生まれたのが、ミズノウエーブでした。1997年には、ミズノウエーブを搭載したシューズである『ウエーブライダー1』も発売されました。

20年間アップデートを重ねて

──ミズノウエーブが誕生してから現在まで進化を続けてきたなかで、ターニングポイントなどはありますか?

たくさんあるのですが、まず挙げるとしたら『ウエーブライダー8』の誕生でしょうか。ウエーブライダー6に対する感想を集めたときに、一部のユーザーから「安定性はあるんだけど、なんだかカチカチするような、言葉にできない違和感がある」という声が挙がり、その違和感を解消できたのがウエーブライダー8だったと聞いています。ミズノの研究ラボでデータをとった結果、急ブレーキや急発進など、強い制動力がかかると、人間の足には想像以上に細かいブレが生じていることがわかり、これをできる限り抑えることで、違和感のもとになる“乗り心地”の悪さを解決することができました。ほかにも、体重移動をさらにスムーズにするためにソールの溝の位置を調整するなど、さまざまな改善がされています。その結果、履き心地のよさをより多くの人に実感してもらうことができたのです。

──ユーザーの声をもとに、改良が重ねられているのですね。やはり、実際に履いた人から感想をもらって初めて気がつくことも多いのですか?

たくさんありますね。そのため、販売店に来てくださるお客さまや、ミズノがサポートしているマラソン大会の参加者の方や、大学の陸上部の選手のみなさんなどにお話を聞いて、よりよいシューズにしていくためのヒントを日頃から集めています。また、ウエーブライダーは世界展開しているプロダクトなので、海外のユーザーや選手にもヒアリングをしています。

──ちなみに、ほかにもミズノウエーブのターニングポイントはありますか?

2016年に誕生したウエーブライダー20も、大きな飛躍となったプロダクトのひとつです。ミズノウエーブの進化系である『クラウドウエーブ』という形状を採用し、より軽やかで心地よい走りをサポートできるようになりました。このクラウドウエーブは、最新の(※取材時点)『ウエーブライダー21』にも引き継がれています。

さらに、20周年を迎えたということもあり、ミズノウエーブの魅力を改めて世の中にアピールすることもできました。20色のカラー展開をしたり、記念のウェブサイトを公開するなどして、よりたくさんの方にミズノウエーブを知っていただくことができたと思っています。

──20周年以上、ミズノを代表するテクノロジーとして進化を続けてきたミズノウエーブ。今後はどのようにアップデートが重ねられていくのでしょうか?

ミズノは、これまでもこれからも、「ランナーにとって何がプラスになるのか」を第一にしています。つまり、ランナー一人ひとりによりそうことを大切にしているんです。今後も、ユーザーの声にひとつひとつ耳を傾けながら、よりよい走り心地のサポートを目指して、ミズノウエーブのアップデートに挑戦していきたいと考えています。

──ランナーたちがよりよいランニングライフを送るために何が必要かを第一に考え、クッション性と安定性の両立を実現したミズノウエーブ。誕生から20年以上経った今でも、“ランナーによりそう”ことを第一にする姿勢は変わらず持ち続けているのですね。今後さらに、どのように進化していくのか楽しみです! ありがとうございました!

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